祖父が歩くと足のふくらはぎが痛くなるため、病院を受診したところ、足の閉塞性動脈硬化症(エイエスオー;ASO)と診断され、ステントによる治療が必要といわれました。
Q:閉塞性動脈硬化症(エイエスオー;ASO)とは?
Q:どういう症状が現れますか?
Q:足のASOでは歩くと足が痛くなるのはどうしてですか?
Q:治療しないで、放っておくとどうなりますか?
Q:足のASOではどの部位で血管がつまることが多いのですか?
Q:足のASOはどのようにして診断するのですか?
Q:どのような検査が行われますか?
Q:血管造影って?
Q:足のASOに対してはどういう治療法がありますか?
Q:ASOに対するIVRによる治療とは?
Q:経皮的血管形成術・ステント留置術とは?
Q:経皮的血管形成術・ステント留置術のすぐれた点は?
Q:経皮的血管形成術・ステント留置術の治療成績は?
Q:経皮的血管形成術・ステント留置術の危険性は?
Q:ASOに対する他の治療法にはどのようなものがありますか?
Q:ASOの予防方法は?

Q:閉塞性動脈硬化症(エイエスオー;ASO)とは?
A:動脈硬化が原因で血管(動脈)が狭くなり、血液の流れが悪くなる病気です。食生活の欧米化や人口の高齢化に伴い、最近増加しています。高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満、喫煙、ストレス、運動不足などはASOになりやすい因子といわれています。
Q:どういう症状が現れますか?
A:心臓を栄養する血管(冠状動脈)がつまると、胸痛が出現し、狭心症や心筋梗塞になることがあります。脳の血管がつまると、意識を失ったり、麻痺が出現し脳梗塞になります。骨盤部(腸骨動脈)や足の血管がつまると、足に冷感やしびれ感が出現し、歩くと腰や足が痛くなります。
Q:足のASOでは歩くと足が痛くなるのはどうしてですか?
A:血管が狭くてもまわりの血管を通ってある程度の血液が流れるため、安静にしている時は、自覚症状はあまり出ません。しかし、歩くにつれて、血流が不足するため、筋肉内には乳酸やカリウムなどの痛みの原因となる物質が貯まり、痛みを自覚するようになります。休憩すると、乳酸やカリウムが減少するため、足の痛みは改善します。
Q:治療しないで、放っておくとどうなりますか?
A:最初は歩くと足が痛くなりますが、病気が進むと、足が細くなり、安静時にも痛みが出現し、さらに進行すると、足の色が悪くなり、潰瘍や壊死(足の一部が腐る)が起きることがあります。痛みがひどい場合や、感染を起こした時は足の一部を切断する必要が出てきます。病気が進むと膝下(下腿部)あるいは膝上(大腿部)で切断しなければならない時もあります。
Q:足のASOではどの部位で血管がつまることが多いのですか?
A:血管が枝分かれする部分でつまることが多いです。これは血管が枝分かれする部分では血液が渦を巻くため、血管の壁に障害がおこりやすいからです。おへその下で大動脈が左右の足へ行く血管(腸骨動脈)に分かれる部位や、足の付け根、膝の部分などでつまる場合が多いです。
Q:足のASOはどのようにして診断するのですか?
A:まず、足のつけね(そけい部)、膝の裏、足の甲、くるぶしの部分で脈がちゃんと触れるかを調べます。ASOでは、脈がふれにくくなります。
次に、腕と足の血圧を同時に測り、その値を比べます。正常な人は足の血圧は腕と比べて同じかやや高いため、その比は1以上です。もし、閉塞性動脈硬化症(ASO)のため血管が狭くなると、足の血圧が下がるためその比は1以下になります。通常0:8~0:9以下になると、何らかの症状が出ます。
Q:どのような検査が行われますか?
A:まず超音波(エコー)で血管の太さや血液の流れをチェックします。次にMRIで腹部から足の先まで調べて、つまっている部位を確認し、まわりの血管の状態も調べます。CTや血管造影がおこなわれることもあります。
Q:血管造影って?
A:足の付け根や腕の動脈から動脈内に細い管(カテーテル)を挿入し、造影剤を注入しながら、X線写真をとる検査です。血管のつまっている程度やまわりの血管の発達の様子が詳しくわかります。
Q:足のASOに対してはどういう治療法がありますか?
A:大きく分けて、運動療法、薬物療法、IVR、外科的(バイパス)手術があります。
軽度のASOでは運動療法あるいは薬物療法だけで、治療が可能なことがあります。しかし、歩くと足が痛くなる例や安静時にも症状がみられる例では、IVRや外科的(バイパス)手術の適応となることが多いです。
Q:ASOに対するIVRによる治療とは?
A:足のASOの治療は、動脈硬化により狭くなった動脈を広げ、足への血流を確保することが重要です。最近、切らずに治す治療すなわちIVRのうち「経皮的血管形成術・ステント留置術」が注目されています。これは、それまでASOの主な治療であったバイパス手術に代わるものであり、治療時間、入院期間が短く、患者様にやさしい治療です。
Q:経皮的血管形成術・ステント留置術とは?
A:狭くなったり閉塞した血管を風船で拡げたり、ステントと呼ばれる金属製の筒を留置することによって血管を拡げて血流を確保する方法です。
足の付け根(そけい部)に局所麻酔を行った後、切らずに、数ミリ大の穴を開けて、先端にバルーンとよばれる風船のついた細い管(バルーンカテーテル)を挿入します。病変部位まで挿入し、風船をふくらまして狭い血管を拡げます。風船だけで十分な効果が得られないときは、カテーテルに載せたステントを挿入し、病変部でステントを拡張させ、血管内腔を確保します。
 
左右の腸骨動脈の入り口に狭窄がみられます(左)。ステントを留置して、経皮的血管拡張術を施行(中央)。狭窄部は良好に拡がっています(右)。


右の腸骨動脈は完全に閉塞しています(左)。ステントを留置して、経皮的血管拡張術を施行(中央)。右の腸骨動脈は拡がって、血流は良好です(右)。
Q:経皮的血管形成術・ステント留置術のすぐれた点は?
A:局所麻酔の後、切らずに数ミリ大の穴を開けるだけで、約1-2時間で治療が済みます。
治療当日はベッド上での安静が必要ですが、翌日からは歩行できます。
入院期間も数日と短いため、外科的手術に比べて患者様の負担は非常に少ないと言えます。
Q:経皮的血管形成術・ステント留置術の治療成績は?
A:経験の多い専門の医師が治療することにより、良い治療効果が得られます。特に骨盤内の腸骨動脈のASOでは成績が良く、ステントの登場により外科的(バイパス)手術のかわりに行われるようになってきました。ふともも(大腿部)では5cm以内の短い病変では、成績は良好ですが、長い病変では30-40%の例で再発がみられます。ただし、本治療法は再発病変に対しても治療は可能です。
Q:経皮的血管形成術・ステント留置術の危険性は?
A:合併症として、血管を拡げることによる血管破裂、血管の壁が一部裂ける解離、ステントへの血栓の付着、末梢への血栓遊離、急性閉塞、穿刺部の出血・動脈瘤などが報告されていますが、経験の多い専門の医師が行えば、その頻度は数%以下と低く、本治療法は安全な治療法といえます。
Q:ASOに対する他の治療法にはどのようなものがありますか?
A:運動療法;速歩や軽いジョギングなどの筋肉運動をすることにより、本来の細い動脈が太くなり、足への血流を増加させる治療法です。この療法は医師の指導のもとで行うことをおすすめします。
薬物療法;血栓ができにくくし、血液をさらさらにする、あるいは細い血管を太くする薬が用いられます。抗血小板薬、抗凝固薬、血管拡張薬などが使われますが、いずれも医師の診断と処方が必要です。経皮的血管形成術・ステント留置術の術後も再発を予防するために、抗血小板薬などを服用します。
外科的(バイパス)手術;狭くなったり閉塞した動脈の先に血液が流れるように、人工血管や患者様自身の血管を用いて血管をつなぎあわせ、迂回ルート(バイパス)をつくる外科的手術です。
Q:ASOの予防方法は?
A:高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満、喫煙、ストレス、運動不足などASOになりやすい因子を取り除くことが大切です。規則的に適度な運動をし、バランスのよい食事をとり、十分な休養と睡眠を心がけましょう。ストレスをためないことも大切です。