CIRSE 2004 印象記

奈良県立医科大学 放射線科 東浦 渉

 このたび日本IVR学会の国際交流促進制度のご援助をいただき、CIRSE 2004に参加させていただくことができました。CIRSE2004の報告をさせていただきます。

 今年のCIRSEはMaynar教授主催のもと、穏やかな天候の中、ガウディーの建築物で有名なBarcelonaで9月25日から29日に開催されました。私は "Early outcomes of cutting balloon angioplasty for femoropopliteal artery stenosis and mechanism of dilation assessed using intravascular ultrasound"という演題で、IVUSを用いてcutting balloon angioplastyの初期成績についてplain balloon angioplastyとの対比を行い、その拡張機序の違いとPTA後に生じる解離の発生頻度について検討し、cutting balloonの有用性について報告しました。Cutting balloonは日本での導入が早かったこと、海外ではIVUSはコストの面で末梢動脈のPTAに対して使用される頻度が少ないことから、対比したplain balloon症例のdataがretrospectiveな検討ではあるものの、我々のstudyには意味があるものと考えています。口演発表であったため、発表当日には緊張がピークに達し、十分練習していたはずの英語での発表原稿は演題場にあがった瞬間に頭の中からすっかり消えてなくなってしまいました。このため、実際の発表ではスライドに書かれている単語をつなぎ合わせたつたない英語で行わざるをえず、聴衆の方々に十分理解していただける内容になっていなかったかも知れません。大変反省し、帰国後、英語の勉強に励んでいるところです。これに挫けず、今後もできる限り口演発表にチャレンジしようと思います。

 さて本稿ではCIRSE 2004で発表された演題のうち、私のsubspecialtyであるperipheral vascular interventionの話題を中心に報告いたします。CIRSE2004の最初のセッションとなっていたSpecial session: Clinical vascular radiologyは重症虚血肢と間歇性跛行患者のマネージメントに関するものであり、朝一番のセッションにも関わらず、超満員の聴衆で会場は立ち見の人も出る程の盛況ぶりでした(日本では想像できない?)。日本のIVR学会とは異なり、欧州の学会ではPeripheral interventionの演題に対する聴衆の関心は高く、熱意がひしひしと感じられました。学会はSymposium、special session、foundation course、workshopおよびfree paperで構成されており、ポスター発表はEPOSで行われていました。Vascular interventionのfoundation courseは穿刺手技の講演から始まり、腸骨動脈閉塞にステントは必須か?、浅大腿動脈に対するステントの適応は?といった講演が行われました。基本的な内容が多く、満足するにはいたりませんでしたが、基本的事項の整理にはなったのではないでしょうか。腸骨動脈領域についてはprimary stentingがselective stentingに勝っていることを証明するエビデンスレベルの高いpaperはないことがこのsymposiumでも確認されていましたが、完全閉塞病変ではstent留置が広く行われているのが現状であり、演者の中では完全閉塞にはprimary stentingを行うことで意見が一致していたようです。CIRSEでは腸骨動脈領域のステントに関するfree paperの演題は少なく、今後この領域に新たなエビデンスレベルの高いpaperが出ることはないのかも知れません。また浅大腿動脈狭窄に対するステントの適応についても現時点ではnitinol stentの成績は良いとする報告がみられるがステント破損の報告もあり現状ではbail-out目的で使用されることが多いといった内容で基本的な考え方にかわりはない様です。浅大腿動脈閉塞性病変に対するnitinol stentの破損については企業がスポンサーとなって開催していた小さなセミナーでも取り上げられていました。ここではステントの種類によって破損頻度が異なること、小さな破損も含めれば多いものは約半数が破損しているステントがあることなどが報告されていました。(このようなセミナーは小規模で行われているため、アットホームな雰囲気で進められており、実際治療をされているdoctorから身近に意見を聴けるので個人的には好きなスタイルです。内容に偏りはあるかもしれませんが。)

 CIRSE 2004で発表されていたpripheral interventionのfree paperではDrug-eluting stent(以下DES)とBelow-the-Knee(以下BTK)angioplastyが比較的多くみられ、これらに関する演題について以下に具体的に報告したいと思います。

 DESはangioplastyを行うものにとっては非常に強いimpactを与えた冠動脈用のdeviceであり、2004年よりようやく日本でも冠動脈用として保険適応となっています。Peripheral interventionの領域でもinfrainguinal arteryの閉塞性疾患など再狭窄の頻度が高い領域に対してはその効果が期待されています。末梢血管のDESといえば浅大腿動脈の閉塞性疾患に対するSMART stentとsirolimus coated SMART stentとのrandomised, double-blind study (SIROCCO Study)が有名であり、今回もDudaらによりSIROCCO IIの治療成績が報告されました(演題9.1.2: SIROCCO II Study: sirolimus coated SMART nitinol stents for the treatment of obstructive superficial femoral artery disease)。内容は18ヵ月の超音波によるfollow upまでの治療成績の報告で、TLR (p=0.19)、TVR(p=0.044)はDESの有用性がかろうじて認められたものの、ステント内の再狭窄率はDES vs controlで20.7% vs 17.9% (P = 0.73)であり、有意差が認められていないと報告されていました。SIROCCO Iと比べ、対象とした病変の長さを短く(<14.5cm)したことから、stentを3本以上連続して留置することがなくなったため、ステントの破損は減少(DESで10.7%)していたが、DESで再狭窄がなくなるといえる結果にはならなかったようです。浅大腿動脈病変はDESに期待していた分野であったにも関わらずその解剖学的な特殊性のためかstentの破損が再狭窄の原因の一つとされ、この領域に対するinterventionの困難さが浮き彫りとなった感がします。Infrainguinal arteryに対するIVRのチャレンジはこれからも続くでしょう。腎動脈狭窄に対するDESの演題として、PattynamaらによるSirolimus-eruting Palmaz Genesis stentのmulti-center trialの初期成績が報告されていました(演題19.2.7: The GREAT study: Palmaz Genesis peripheral stainless steel balloon-expandable stent, bare versus sirolimus-eluting, in renal artery treatment: six-month follow-up results)。105例(bare metal 52例、DES 53例)を対象とした11施設による他施設・prospective studyですが、randomized-controlled studyではありません。In-stent restenosisはbare metal vs DES: 14.3% vs 6.7%で有意差は見られず(p=0.30)、TLRは11.5 vs 3.7%とDESで低くなってはいるが、有意差が生じるまでには至らなかった(p=0.16)。DESに圧倒的な優位性はみられず、残念な結果になっています。

 BTKに対する演題ではManziら(演題38.4.3: Limb salvage in type 2 diabetic patients: percutaneous transluminal angioplasty and Rotablator combined technique)は2型糖尿病症例、38例68肢に対し、limb salvageを目的にballoon angioplastyとRotablatorのcombined therapyについて報告していました。89%の症例でulcerationやinfectionが改善し、Rotablatorとangioplastyのcombined techniqueは良好な成績が得られた報告としています。糖尿病症例ではメンケベック型の強い石灰化病変が多く存在し、通常のballoon PTAでは拡張困難な病変に対して、Rotablatorを併用することでdebulkingを行えば、balloon angioplastyによる拡張効果が向上し、これらのcombined techniqueの有用性が期待される結果となっています。またDESを使用したstudyも報告されています。Siablisらは16例のBTK occlusive diseaseに対しsirolimus-eluting stentを留置した結果を報告されていました(演題9.1.1: Infrapopliteal stenting with simple versus drug-eluting stents: preliminary experience)。6ヵ月後のbinary restenosisは3.7% (bare metal: 18%)と低く、bare metal stentでは4例にamputationが必要となったが、sirolimus-eluting stentではamputationを要した症例はなく、良好な結果が得られていた(ただし、non-randomized study)。確かにBTKの動脈は血管径が細い上に流速が遅く、再狭窄のリスクは高いと考えられ、DESの有用性は十分期待できるが、議論にもなっていたように病変長が長いため複数のステント(多い症例はステント4本必要)が必要となるケースが見られることからコストが問題ではないかと考えられます。またTepeらはAbciximabによる治療とDES留置の併用の有用性をみるrandomized studyの初期成績を報告しています(演題38.4.5: GP IIb/IIa blockade and drug-eluting stents with below-the-knee arterial interventions. Results of the first randomized patients of the BELOW-study)。11例がAbciximab + Sirolimus-eluting stentにentryされ、初期のtechnical success rateは100%、2ヶ月のfollow upでは1例に閉塞が起こり、1例がamputationとなった。もともとslow-flowでrun off vesselも限られているBTK lesionではAbciximabの効果が期待されており、DESとのcombined therapyが良好な治療効果をもたらすかもしれません。まだエントリーされた症例が少なく、始まったばかりで明らかな結果を示す内容ではなかったが、今後どのような結果が発表されるか興味のあるところです。現在使用されているDESでは複数のステントが必要となってしまいますが、BTK lesionはいずれの治療法でも困難な症例が多く、今後デリバリーが簡便で長い病変もカバーできるDESなど新たなdeviceの開発が期待されます。BTKの講演を行った各演者が講演中に強調していましたが、この領域の治療はIVR・外科的治療のいずれにおいてもその有用性を示す高いレベルのエビデンスがありません。このため、重症虚血のBTKの治療については「interventinalistが治療しようと思った時が適応だ」といった意見もありました。今後、randomized studyによるレベルの高いエビデンスを確立する必要がありますが、重症症例が多くなる中でなかなかtrialが行いにくいのが現状かも知れません。いずれにしろinfrainguinal arteryの閉塞性疾患に対するIVRは安定した治療成績が得られた報告は少なく、現時点ではDESを用いても圧倒的なbreak throughは得られない様です。様々なcombined therapyも考案されているようであり、まとまった治療成績の報告が望まれます。

 今回のCIRSEは目新しい演題が少ない印象でしたが、国際学会へ参加することは交流を広める目的と、モチベーションを高める意味では非常に重要なことだと体感できました。このような機会を与えて頂き、誠にありがとうございました。

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