IVRって、なに?

IVRって、なに? ~インターベンションナルラジオロジーの紹介~

 IVR(アイ・ブイ・アール)という言葉をご存じでしょうか。さまざまな医療場面で活躍の場を広げている治療法で、正確には「Interventional Radiology=インターベンショナルラジオロジー」、日本語では「画像下治療」と訳しています。文字通り、X線(レントゲン)やCT、超音波などの画像診断装置で体の中を透かして見ながら、細い医療器具(カテーテルや針)を入れて、標的となる病気の治療を行っていきます。

体への負担が圧倒的に少ない

 IVRは、外科手術のようにおなかや胸を切らずに、体の奥にある臓器や血管の治療ができる方法です。そのため、患者さんの体への負担が圧倒的に少ないという特徴を持っています。

 また、医療器具を入れる穴も数ミリ程度と小さく、器具を抜いた後は縫う必要もないので(絆創膏を貼ります)、処置後の傷もほとんど残りません。

 1980年代に米国で始まった技術で、日本では80年代の中頃から広まり始め、今やIVRはさまざまな医療の領域で欠かせない存在となっています。

血管の詰まりやがんの治療など幅広く対応

 治療できる範囲が非常に幅広いのも特徴です。私たちの体の中には10万キロに及ぶ血管と多くの管(消化管や尿管など)が張り巡らされていますが、IVRではこの血管や管の“迷路”を体の外から観察しながら、カテーテル(血管の中を通すチューブ)や針を走らせ、目標である病気の元に正確にたどり着けるからです。このため、体の負担は小さくても、IVRで対応できる病気は多いのです。

 そもそも血管を通るわけですから、血管の詰まりを治すことはお手のものですし、血管をたどって肝臓などの臓器に行くことで、抗がん剤を注入したり、がんの成長に必要な血液をがんに届かないようにしたりすることなどもできます。

 がんに伴う痛みもIVRが得意とするとことで、がんのせいで弱くなり痛みの原因となっている骨にセメントを注入して骨を強化するなど、痛みを根本から抑える治療を行うことができます。

交通事故などでの出血場所もいち早く発見

 また、交通事故など救急の場合には一刻も早い止血が必要ですが、外科医がおなかを切って出血している場所を探すのは決して簡単ではありません。どんな名医でも、大量に流れる血液の中から出血場所を見つけるのは困難なことでした。

 IVRでは、造影剤(X線で流れが確認できる液体の薬)を流し、血液が漏れている場所、すなわち出血している場所を探します。それから、血管を伝って探し当てた出血部位までわずか1~2分でたどり着き、すぐに止血することができます。こうした例は、命を救うことに直接役立つ、IVRの最も得意とする領域の一つと言えるでしょう。

被曝の危険性は?

 IVRの治療は短時間で終わるものがほとんどのため、入院期間が短いという利点があります。一方で、短時間でもX線などの放射線診断機器を使うため、一定の放射線にさらされるのも事実です。これらは、IVRによる危険性と効果の関係から判断されますが、被曝(ひばく)の危険性については主治医の説明をしっかりと聞き、治療を受けるかどうかを判断していただく必要があります。

 最近の医療機器の進歩は目覚ましく、低い放射線量で診療ができるようになっています。国立がん研究センター中央病院では年間4,000例ほどのIVRを使った治療を行っていますが、放射線との関連が明らかな事故は起きていません。

医療費は?

 医療費の問題を心配される方もいるでしょうが、IVRに使用する医療器具は重粒子線や陽子線などのようにものすごく高価な治療法というわけではありません。実際、がんに伴う痛みに対してモルヒネなどの薬で対処する治療の医療費と比べてもそん色はありません。

 IVRは、「ワルファリン」などの血液をさらさらにする薬を飲んでいる場合には、薬の服用を中止してその効果が切れてから、あるいはその薬の効果を中和してから行う必要がありますが、基本的には誰もが受けられる治療です。このような、体にほとんど傷を残さない優しい治療であることを、ぜひ多くの方々にしっておいていただきたいと思います。

荒井 保明 (国立がん研究センター理事長特任補佐)

 

がん診療のさまざまな場面で活躍するIVR

外傷の治療としてのIVR

生活習慣病の増加で注目される血管治療のIVR

 

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更新日: 2018年4月16日



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